その7 大興奮の茶体験~商談へ
2023年9月27日
夕食の際に手持ちのお酒を分け合ったことで意気投合したドイツ人女性と早朝トレッキングに出かけることになった
スリランカといえども、ここは標高1000mの高地。朝晩はめっきり冷え込む。念のため持参したユニクロのウルトラライトダウンはもちろんのこと、ありったけの服を着こんでストールもぐるぐる巻きにして出かける。足元にはヒル除けの大きい靴下のようなものも履く。雨期の森は東京で生活している私では想像もできないほどのヒルの大群に遭遇するとか
農園のスタッフとドイツ人レディ、私、犬のメンバーで、鬱蒼とした茂みを歩くこと1時間。私たちは小高い丘の頂上に着いた。あいにくの曇天で日の出は拝めなかったものの、ウバの山々が360度見渡せた。はるか向こうにはスリランカ一の聖なる山・アダムスピーク(スリーパーダ)も見える。今日の商談が無事にうまいこと進みますようにと山に手を合わせた
そして、いよいよ緊張の商談タイム。スリランカ入りする前に担当者とは何度かメールでやりとりし、だいたいの希望の品はすでに発注済。大きいロットのものだけは試飲してから決めたいと伝えていた
まずはひと通り試飲させていただく。スリランカでは一般的に紅茶だが、こちらの農園では紅茶のみならず白茶や緑茶、チャイ、同じく農園で採取したカメリアの花やシナモン、バニラなどを加えたブレンドティ、コーヒーなどさまざまな種類のものをこだわりぬいて製造している。言わずもがな茶葉はオーガニック栽培のもの。茶摘みから製茶までほぼ手作業、たまに登場する機械は大昔から受け継がれている年代物である
少ないスタッフで宝物のように手塩にかけられたお茶がおいしくないはずはない。大きな工場とは違って製茶できる量はほんのわずかだが、この貴重なお茶を求めて今では世界中から名だたるレストランや茶メーカーがこぞって買い付けにやってくるという
ハンドロールした紅茶、中国式に釜炒りした緑茶、日本式に“うまみ”にこだわった緑茶などなど。はるばるやって来たぜという興奮も相まって、私は試飲させていただくたびに得も言われぬ多幸感に包まれていた
なかでも、ひときわ衝撃的だったのは、一芯二葉ならぬ一芯だけ、チャノキの一番先端のヒュッとした若い芽だけを集めて製茶した白茶だ。農園では“シャンパーニュ”という俗称で呼ばれているそのお茶は、まずは水色(すいしょく。お茶の色)はその名の通りのシャンパンゴールド。味わいはとても繊細な花の香り、メロンのような風合い。儚いようでいて強烈なたくましさも感じる。すごいお茶に出会ってしまった。当時のメモを見てもプライスリストの“シャンパーニュ”の欄にはグリグリに赤丸が書かれており、その時の私の感動ぶりがうかがえる
しかし、いかんせん高すぎるのだ。これは絶対に仕入れなければという謎の使命感の裏で、コスト問題と日本の水でこの味が再現できるのかという不安と戦っていた。一晩じっくり悩んだあくる日。考えに考え抜いて、私は“シャンパーニュ”を仕入れることを決断した
その8へ続く
#スリランカ買い付け出張記2023